Memo43 S行列の具体的な計算(1)

前回まででS行列の具体的な計算に必要なトリックは一通りは見てきたことになります。今回からはさらに辛いこのS行列の具体的な計算をやってみようと思います。実際は「場の量子論 中西譲著」ではこのあたりからFeynman図に入っていきますが、ここに来て「自力でS行列の計算をやってみなさい」という内なる声が聞こえてきます。理解度の指標にもなると思います。ただ「場の量子論 中西譲著」では途中の計算は全く無いので行間を埋めるどころか闇の中をさまよって一つの出口に出られるか?です、、、。

さて始めてみましょうか。

S行列と場の関係は、
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/c/cat_falcon/20190805/20190805025324.jpg
でした、初期状態(無限の過去)と終了状態(無限の未来)をつないでいるブラックボックスがS行列でした。無限の過去と無限の未来を考える理由は以前にも書いたように相互作用の無い状態を想定するからに他なりません。とは言っても
素粒子の反応は一瞬とも思える時間(0.0000000000 0000000001秒)程度
で完了してしまうような世界らしいので0.1秒の前後でさえ素粒子にとって見れば無限とも言えるくらいの長時間で数秒後世界を描いていると思えば現実的な話になります。

なのでまず、初期状態と終了状態を与えると、そのような反応がS行列から計算できる事になります。初期状態と終了状態は相互作用の無い状態なので
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/c/cat_falcon/20190805/20190805025328.jpg
という形になります。従って具体的な反応の計算では
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/c/cat_falcon/20190805/20190805025333.jpg
を計算することになるという事になります。さて、これを計算するにはS行列の具体的な形を決定する必要があります。S行列は、
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/c/cat_falcon/20190805/20190805025337.jpg
でした。さらに相互作用ラグランジアン密度を与える必要があります。以前書いたようにラグランジアン密度は導出されません。なので決めなければなりません。つまり、ラグランジアン密度ありきです。幸い先人達によって電磁相互作用ラグランジアン密度のあるべき姿が探り出されています。QED(量子電磁気力学)で与えられる電磁相互作用のラグランジアン密度は、
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/c/cat_falcon/20190805/20190805025342.jpg
です。これでS行列の具体的な形を求める準備は整いました。さらにS行列は摂動級数の形で与えられていますから、最低でも2次の項を決定する必要があります。0次、1次の項は反応に寄与しないので具体的に計算するのは2次以降という事です。