第22話 爆弾判定・無相互作用測定(前編)

これまでの話
第17話 神はサイコロを振らない
第18話 反撃(1)
第19話 反撃(2)
第20話 隠れた変数とベルの不等式
第21話 ベルの不等式の破れ

ハーフミラー①を通った粒子は半分は通過、半分は反射するものとする。例えば光子は偏光があるためこのような事が可能になる。５０％は通過し残りは反射するわけだが量子力学はそれが１個の粒子でも起きる（重ね合わせ状態）。
第5話 観測と状態の重ね合わせについて（二重スリットの実験再考）
第6話 重ね合わせの状態ってどういう状態？

反射の状態はでは位相θとよばれる値（角度）が90度回転する事を意味している。そのためハーフミラーは反射光の位相を90度ずらすが透過光の位相は変えない。位相をθとするとき位相を考慮した重ね合わせは(重ね合わせの一方がθだけ位相がずれている場合)

と書ける。ここでオイラーの公式　

である。ここで光子が重ね合わせで各ルートを辿るイメージは

ハーフミラー①を通った粒子は分岐して重ね合わせ

となる。この粒子が重ね合わせ状態でミラー②、ミラー③をそのまま反射して

となる。さらにハーフミラー④に到達する。そして再び位相が９０度ずれる。

従って、

状態は|F> の状態だけ（100%）となる。

つまり検知器Aでしか検知されない事が判る。

これはハーフミラーを2度通過するのでAで検知されるのはハーフミラー①かハーフミラー④のどちらかで一度しか反射されないケースに限られる。従って位相は９０度しかずれない。Bで検知されるのは反射を２回起こしたか透過を２度起こしたケースに限られるので位相は元の状態と１８０度ずれた逆位相で打ち消される。

下の図はエリツールとベイドマンが提案した実験のイメージです。

この装置で「無相互作用測定」または「ヌル値観測」と呼ばれる実験を行うのである。
Elitzur A. C. and Vaidman L. (1993). Quantum mechanical interaction-free measurements. Found. Phys. 23, 987-97.
起爆ミラーは爆弾の起爆装置を作動させる敏感な検知器になってる。この感度は光子１個で十分なほど鋭敏である。問題は爆弾の製造過程で不良品が混在していることがありこの不良品は起爆ミラーに光子が当たっても爆発を起こさないのである。そこで正常品を残したいが可能だろうか？
この問題の要点は次のような問いに等しい。

（１）起爆ミラーには光子が１個あたっただけで爆発する。
（２）不良品は光子が当たっても爆発しない。
（３）正常品を見分ける方法は１個の光子を起爆ミラーに当てるしかない。

普通は（正確には古典的には）正常品を残す手段は存在しないのだが...。