備忘録・深夜の苦悩と看護婦さんへの感謝

結局、麻酔から目がさめたのは深夜だった。

手術は終わってあの激痛から開放されたのか、、、されなかった。とにかく猛烈な激痛だがうなったり、わめくのは大人気ないと思い歯を食い縛っていた。それと首の辺りが痛かった。どうやら枕が無いためにそうなっていた。激痛もさることながらそっちも苦痛だった。

深夜にも関わらず看護婦さんは定期的に回ってきていたので

「枕を下さい」

と言ってみた。駄目だったがちゃんと理由があった。全身麻酔のため全身が弛緩しているため頚椎を損傷しないようにするための処置のようだった。

とにかく出刃包丁で何度も突き刺されてねじ込まれる激痛は耐えがたいものがあったが朝になれば和らぐんじゃ無いかと勝手に思っていたのか朝に早くならないかという点が気になってしょうがなかった。

ようやく朝になった。病室で一夜を過ごした安堵感もあったが思っていたように激痛からは開放されなかった。それと夜通し頻繁に看護婦さんが来ていたのにも理由があった。全身が弛緩しているため膀胱にたまった尿で膀胱破裂をさけるため尿道から通したパイプから排出された尿が尿瓶に溜まっていたら捨てに行くという涙ぐましい献身をしてくれていたのだった。今では感謝の言葉しかないと思っている。

朝になると周りのあちこちから声が聞こえてきて少しは苦痛はまぎれるようになっていた。次に気になったのは尿道から突っ込まれたパイプだ。またわがままを言う事にした。

「自力で排尿したいのでこのパイプを抜いてくれ」

説得に少し時間はかかったが

「自力で立てるなら良いよ」

と言われたので「自力でたてる」と返事をしてしまった。パイプを抜きにきたのは高校生くらいの看護婦さんだった。今考えると恥ずかしいがその時は何とも思わなかった。とにかくその子の補助付きでトイレまで這うような足取りで行って自力でオシッコした。爽快だった。

後で分かったのだがこの病院は新人看護婦さんや見習い(夜間は高校にいって昼間は実地研修)を受け入れている病院だったのでとにかく若い看護婦さんの卵が沢山いた。今でもその点だけは良い思いをしたと思っている。

ふと、左腕を見ると数箇所にあざが出来ていた。原因は直ぐに分かった。夜通し激痛に耐えるため右手で左腕を掴んでいたため指の後があざとなって残っていたのだ。

これも後で分かったのだが、あれだけ辛抱強い患者は珍しいと言われた。長期入院だったので事故等で手術のあった日の夜は女性の悲痛な鳴き声や、おじさんのわめき声、うめき声が深夜の病棟に響くのは珍しくなかった。

あんなに我慢した自分がちっぽけに見えた。