Note32 ワイルのゲージ変換というアイデア

前回書いたように、
アインシュタイン重力場電磁場を統一しようという野望を果たすための苦戦を始めます。一方、数学者ワイルがある一つのアイデアを巡らせていました。1018年にこのアイデアを発表しています。
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どんなアイデアだったのか?。
ワイルのアイデアの前に重力場の数学的背景を改めて書くと
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ベクトルは平行移動すると向きは変化してしまう。ただし2点間距離は不変という事です。これは線形接続のクリストッフェル記号(Christoffel symbols)が計量的だったからです。計量的というのは(リーマン)計量がxからyへの曲線に沿う平行移動τに対して
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が成り立つときでした。これは平行移動で長さが変わったりしないという極自然な考え方ですね。さて、数学者ワイルは「まだ一般化できる」と考えたわけです。もうピンと来ますね。そう、「平行移動で長さが変わっても良い」と考えるわけです。このように概念を一般化するとリーマン幾何学は「平行移動で長さが変化する変化率がゼロ」の特殊なケースとして含まれる事になります。そこでベクトルの向きの変化を推察したやり方を真似ると
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という接続を考える事が出来ます。つまり「平行移動で長さが変わっても良い」というために接続係数Aが必要になるという事らしい。
それで、ワイルはこの接続係数Aにはある任意性が生じる問題を見出す。それは
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という事だったからワイルが重要視したのは「このAの任意性」でした。これは4元電磁ポテンシャルと同じだ!!」という推察する。そしてこのAを「4元電磁ポテンシャル」と考えるべし、とした。つまりワイルはベクトルの接続係数とスケールの接続係数を考える事で重力場と電磁場が一つの幾何学の問題として統一できるのではと考えたようです。

それで、ワイルはこのスケールを時空で変化させてしまうような変換をゲージ(物差し)を変える変換と考え「ゲージ変換」と呼んだ。
(座標変換するのではなくゲージ(物差し)を変える変換)

注意したいのは4次元時空のスケールという意味なのでここで言っているスケールは時間と空間のスケールだと言う事です。

このワイルの奇抜なアイデアはどうなったのか?
アインシュタインは「すばらしいアイデア」と評価しているが付け加えて
物理としては駄目だ
と評価した。

何が駄目だったのか?
ワイルの理論では電磁場はあらゆる物理量がその源になる可能性があるようです。そうなると電磁場が電荷を持った物質だけが源であるという実験事実とも合わない等、Aという場は電磁場の性質を全く持っていないと言う事らしい。

結局、ワイルのすばらしいアイデアは埋没してしまう。ところが彼の功績は大きい。ゲージ変換に対する不変性という概念はそのまま生き残り、現在の量子論ではゲージ変換の概念は無くてはならない重要な概念となっている。