ブラックホールとホーキングとキップ・ソーンの賭け

ホーキングキップ・ソーンブラックホールに関する賭けでホーキングが敗北宣言をしたのはご存知の方も多いと思います。どんな賭けをしたのか?
時事通信の記事を引用してみましょう。

【2004ロンドン15日時事】
英科学誌ニュー・サイエンティストは15日までに、著名な宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士(62)が来週アイルランドで開かれる学会で、自らが打ち立てたブラックホールと情報の矛盾に関する理論は誤りだったと認めると報じた。 (時事通信

ブラックホールと情報の矛盾って何だ?

まずはホーキングの論文をチラ見してみよう。
Black hole information paradox
INFORMATION LOSS IN BLACK HOLES
http://arxiv.org/PS_cache/hep-th/pdf/0507/0507171v2.pdf
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ん、、、、、意味不明だ。ブラックホールで情報が失われる。まだ漠然としているのでもう少し調査してみると次のような事らしい。

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ところがこの予測、重大なパラドクスを抱えている。それが「情報のパラドクス」と呼ばれているようだ。まだ何処がパラドクスなのかピンと来ない。

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なるほど、つまりこういう事だろうか?
(1) 何かがブラックホールに吸い込まれた!!
(2) ブラックホールはホーキング放射どんどん萎んで消えてなくなる。
(3) しかしホーキング放射は吸い込んだ物とは関係ない。
(4) だったら、吸い込まれた物は一体どこへ行ったんだ?
ぼーっと考えるとこれれもまだ何処が問題なのか?が分からない。少し比喩で考えてみよう。
(1) 焼却炉にゴミを捨てる
(2) 燃えて無くなる
と考えてはダメだ。どこも変じゃ無い気になってしまう。
(1) 焼却炉にゴミを捨てる
(2) 燃えて無くなる
(3) どの焼却炉からも同じような火炎と煙が出てくる
(4) 投入したゴミは?

つまり、投入したゴミが燃えてなくなるのなら焼却炉によって(つまり投入したゴミの違いによって)は火炎と煙が異なって出てくる。つまり燃えたものが火炎と煙となって出てくるから形が変わっただけで本当に消えたのでは無い。しかしどの焼却炉もどんなゴミを投入しても投入したゴミが燃えてるのではなく焼却炉が勝手にだしている火炎と煙が出ているだけ。なのに焼却炉の中を見てみるとゴミが無くなっている。なんで??
まあ、こんなイメージだろうか?

もう少し突っ込んでみる。
ブラックホールが何も残さずに完全に蒸発しきると、物体の情報はどこに消えたのだろう?消えてしまうという事はブラックホールの状態がどんな状態にあろうと同じ状態になったということで、始状態が違うのに終状態が同じになるような状態移行は量子力学と矛盾する。という事らしい。これは何を言っているのか?。

量子力学によれば状態の時間発展はユニタリー作用素Uで記述される。互いに異なるブラックホールAとブラックホールBが何もなくなってしまう(null)状態に時間発展する。
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つまり、初期状態が異なっているにもかかわらず同じ最終状態に達することになり、量子力学のユニタリ性 を壊してしまう(矛盾する)。

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ユニタリ性が壊れると何がそんなにまずいのか?これは量子力学の確率解釈に端を発する。簡単に言えば全確率が100% というすごーく常識的な前提が壊れてしまう。つまりこれは量子力学の確率解釈が破綻しているという事にも繋がりそうだ。

なるほど、大問題じゃ無いか!!(このパラドクスは)
このパラドックスこそが「ブラックホールの情報喪失問題 」と呼ばれて長年議論されてきた核心のようだ。これについて、2004年 7月21日 にホーキングの敗北宣言は「ブラックホールに吸い込まれた物質が持っていた情報は(やっぱり?)ブラックホールの蒸発に伴って何らかの形でホーキング輻射に反映され、外部に出てくる」という新説を発表し、従来の自説を修正したという事らしい。

それで元々はホーキングとキップ・ソーンは「情報は失われる」に賭けていた。つまり情報は失われることがないに賭けていたプレスキル博士が勝ったという事になる。
「情報は失われることがない」という洒落だったのか百科事典が送られることになっていたのでジョン・プレスキルには百科事典がホーキングとキップ・ソーンから送られた。

今日はブラックホールの情報喪失問題(Black Hole Information Loss Problem)について少し理解が深まったかな。