第18話 反撃(1)


ベルギーのブリュッセルで開かれた第6回ソルベイ会議(The Solvay Conferences on Physics)で量子力学を叩きに出たアインシュタインであったがボーアの思わぬ反撃で撤退を余儀なくされた。しかしアインシュタインは虎視眈々と反撃の準備を進めていたのである。アインシュタインは若手のボリス・ポドルスキー、ネイサン・ローゼンという2名の協力者を得て反撃に出る事になる。この3名の頭文字Einstein, Podolsky, Rosen をとってEPRと呼ばれています。さて、その反撃とはどうのような反撃だったのか?それはある特殊な状況に置かれた2粒子に課せられた運命ともいえる現象についてだった。
※以下の説明は難解なEPR論文の解説では無い。EPRの反撃点には注意して欲しい。

2粒子の系はそれぞれの量子状態のテンソル積となることは量子力学の基本4(状態ベクトルの基本)で簡単に説明したが次のように表せる。
2粒子のそれぞれの重ね合わせを
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とするとき、この2粒子系の総括的な量子状態は
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となります。観測が行われるまでは |x>|x>, |x>|y>, |y>|x>, |y>|y> の重ねあわせ状態にあります。

これに対してEPRは次の今日「ベル基底」とよばれる2粒子の状態に着目した。上記のようなテンソル積に分解できない、言わば絡み合った状態である。(これらの基底の存在は実験的にも確かめられている)量子からみあい状態、量子もつれ合い状態と言いますが「entanglement(エンタングルメント)状態」がある意味業界用語のようです。

各ベル基底は次のような状態です。
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これらが直交基底になっていることはすぐにわかる。
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そのほかも同様です。ベル基底も観測されると |x>|x>, |x>|y>, |y>|x>, |y>|y> のどれかになる。

以下では重ね合わせ状態の2粒子ペアを放出する装置を考えます。(思考実験です)
添え字の1、2は粒子の番号(例えば黄色が1、青が2)

●観測が(|Y+> または |Y->)の場合
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このとき2粒子の観測状況は下の図のようなイメージになる。
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ただし、これは仮に逆だったとしても
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結局は同じ基底 |x>|x> を観測した事になる。

しかし次の状態は|x>|x>と|y>|y>の観測状況とは性質が異なる。
●観測が(|X+> または |X->)の場合
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基底|x>|y>を観測した事になる。しかし一つ目が|y> だったら、この場合は基底|y>|x>を観測した事になる。


この状況は次のようにしても確認できる。2粒子の観測結果が次の|A>または|B>の状態があったとする時、
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次のベル状態
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に対して|x>を最初に観測すると、つまり射影作用素を使ってこの観測過程を見て見るとPxで|x>を最初に観測=>Pxを作用させると、
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となるため状態は|A>つまり|x>|y>になっている。つまり(|x>を観測した時点で)|y> という状態に(瞬時に)移行してしまっている。重要な点は観測される以前は重ね合わせの状態であったという点である。

観測により一方の状態が決まると、瞬時に他方の状態も決まる。
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この状態の収束はa,b間の距離に依存していない事は明らか。従ってaとbは相互作用を行わないほど離れていても良い。そのためaで確定(波束の収束)した事でbの状態が確定する事に対して物理的な過程はない。なので瞬時に情報が伝わるという説明は間違いである。観測により一方の状態が決まると、瞬時に他方の状態も決まる状態を非局在性(nonlocality)という。
[ http://blogs.yahoo.co.jp/cat_falcon/4297863.html エンタングルメント]

■みかけの絡み合いと量子絡み合い
例えば、
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の違いである。もう少し正確に言えば本当の量子絡み合いは基底を変えても量子絡み合いになっています。例えば次のような基底の変換を考えます。
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次の量子もつれ状態を
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上記の基底変換をしてみると、
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となってやはり量子もつれ状態となっている事が分かる。