Note257 不定計量のヒルベルト空間(ghost(お化け)と補助条件)

場の量子論では負の確率という厄介な状態が出てきてしまう。こういったものはゴーストと呼んでいる。それでマイナスのノルムを無視したら良いではないかと安直に思ってしまうのだが話はそう簡単では無い。S行列のユニタリ性をどうしてくれるのか?ということらしい。

そこで登場するの補助条件(subsidiary condition)という事になる。

(1) 補助条件は状態ベクトルに対して線形
(2) 補助条件は時間に依存しない
(3) マイナス・ノルムの状態ベクトルを含まない。

この条件を満たす状態ベクトル全体は不定計量ヒルベルト空間の部分空間になっていて
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ところで物理的部分空間にはゼロ・ノルムの状態ベクトルが生き残っている。先日、ゼロ・ノルムの状態ベクトルが存在するとマイナス・ノルムが出てきてしまうという困難があったが補助条件によってマイナス・ノルムにはならないで部分空間をなしている。

実際、
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となって矛盾する事になる。従って物理的部分空間のゼロ・ノルム状態ベクトル全体は部分空間となっている。このことから。確率解釈のできるヒルベルト空間を定義するため物理的部分空間から得られるゼロ・ノルム状態をすべて同一視して正・ノルム状態を代表元に選べば良い。つまりこういう同一視のもとでの商空間
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正定値ノルムだけを持つヒルベルト空間となっている。ところで一般の不定計量ヒルベルト空間で量子論を考えるならS行列ではユニタリである。
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ユニタリではあるが不定計量のためマイナス・ノルムを持つ状態ベクトルを含んでいるため確率解釈を壊してしまう。確率解釈を温存するにはどうしてもマイナス・ノルムを持つ状態ベクトルが邪魔なわけだがこれを無節操に排除すると今度はS行列ではユニタリ性はどうしてくれるか?という困難があったわけだが補助条件が存在すれば物理的部分空間にS行列を制限(物理的S行列)してもゼロ・ノルムの状態ベクトルを無視すると完全にユニタリであることが保障されるのだそうだ。つまり
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においてS行列は完全にユニタリである。
これによって不定計量ヒルベルト空間における量子論でも確率解釈は矛盾無く生き続けられるというわけらしい。