第33話 量子テレポーテーションの発見


量子テレポーテーション(Quantum teleportation)
1993年にIBMのベネットが書いた論文がその発端である。
C. H. Bennett, et al., Phys. Rev. Lett. 70, 1895 (1993)
EPRを利用した巧妙な仕組みで量子状態のテレポーテーションが理論的に可能な事を示していた。
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●一番先は誰なのか?
量子テレポーテーションは理論的に発見された現象で当分は夢の技術だと思われていたのだが早くも1997 年にインスブルック大学(University of Innsbruck)のグループが実証に成功したと報告したのである。
Bouwmeester, D., et al.“Experimental quantum teleportation”. Nature. 390,1997, p.575.
さらに1998年にカリフォルニア工科大学のグループが成功を報告している。
Furusawa, A., et al.“Unconditional Quantum Teleportation”. Science. 282,1998, p.706.
この実験結果は1998年にScience誌の10大成果に選出された。

ところが、一番乗りは「カリフォルニア工科大学のグループだ」といった事で両者は一番乗りをめぐる熾烈な論争合戦となった。数年に及ぶ論争の結果ベネットの提案を忠実に検証したのはカリフォルニア工科大学のグループであるという彼らの主張からカリフォルニア工科大学の実験が世界初の量子テレポーテーションとして一応の決着はついた。

と思われていたのだが、2000年に、カリフォルニア工科大学の実験にも実証の正当性に致命的な欠陥があるという主張をオーストリアのESIグループが行った。
Rudolph, T. ; Sanders, B. C.“Requirement of Optical Coherence for Continuous-Variable Quantum Teleportation”. Phys. Rev. Lett. 87, 2001, p.077903.
そのためカリフォルニア工科大学のグループの実験は提案に忠実な量子テレポーテーションではないという結論がなされた。

結局、誰が最初なのか?
こんな経緯もあったのだが一応1998年のカリフォルニア工科大学のグループが最初だという事になっているようです。

次回から「ベル測定」から実際に「量子テレポーテーション」する過程を計算しながら細かく見ていく事にします。


追記
記事には1998年のカリフォルニア工科大学の実験ミスをオーストリアのESIグループが指摘した、と書いたが調べてみるとさらにオーストリアのESIグループの指摘自体が誤っているという反論をカリフォルニア工科大学が行っていました。でどうなったのか? その後の推移は調べられなかったが最終的にはやはりカリフォルニア工科大学の実験が正解だったようです。 東芝の実験による公開資料にその正当性を確認したという報告も載っていました。http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2004/10/59_10pdf/f07.pdf